悪意のない善意~寒い時期には気をつけましょう

「毛がないね」5歳の姪の一言に、周りが一瞬凍り付きました。
1年ぶりに遊びに来た叔父さんが、楽しい時間を終え、玄関で靴を履こうと屈んだ時のことです。
大好きな叔父さんが帰るというので、名残惜しい彼女は、最後におんぶして貰おうと、叔父さんの背後に回ったのです。
背の低い彼女にとって叔父さんは、いつも見上げる存在です。ですから、今まで頭頂部を見ることもなかったのです。
姪が言ったことは間違ってはいないのです。事実、叔父さんの頭頂部は綺麗に毛がありません。
運が悪かったのは、彼女の周りに頭の薄い人がいなかったこと。初めてそういう頭頂部を見たのでしょう。
ですから「毛がないね」は素直な彼女の感想だったのですが、こういう時、大人はどんな風に返事すれば良いのでしょう?
「違うよ」っというのも事実ではないし、「そういうことを言ってはダメよ」と言うのも何だか違う気がして、絶句してしまった私。
返事に窮していると、無邪気な姪は「おじちゃん、ここ、寒くないの?」と、ニコニコしながら、頭頂部のその部分を手で触りました。
きっと冷たくなっていたのでしょう。

何かを思いついたように玄関から家の奥に走っていって、さっきまで投げていたカイロを持ってくる彼女。
その時点で嫌な予感はしたのです。

私が止めれば良かったのですが、スキップで戻ってきた彼女は「これで温かいよ」と座っている叔父さんの頭にカイロを置いてしまったのです。
心の中では「ダメー!」と叫んではいたものの、頭頂部にカイロが置かれているという、たぶん一生に一度も見ない光景に不謹慎にも笑いがこみ上げました。
悪気は一切ないのです。彼女なりに大好きな叔父さんの頭を温めてあげようとしただけなのです。
その悪意のない無邪気さに、カイロを置かれた叔父さんは怒ることも出来ず、また取ることも出来ず、のっけたまま車に乗り込む姿がまた哀愁を帯びていました。

満足げに手を振る彼女・・・。
その彼女も今年中学生。あの時のことは覚えてないようですが、今でも叔父さんのことは大好きです。
hokkairo